世界遺産とは

それは、現代を生きる世界すべての人々が共有し、未来の世代に引き継いでいくべき人類共通の"たからもの"

 1972年、ユネスコ総会で「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」が採択されました。「世界遺産」とは、この条約に基づき、全世界の人々の共有財産として国際的に保護・保全していくことが義務づけられている「遺跡」や「建造物」、「自然」などのことです。
 「世界遺産」として登録するには、ユネスコ「世界遺産委員会」において資産の内容が他に類例のない固有のものであり、国際的に決められた判定基準に照らして「顕著で普遍的な価値」があると認められなければなりません。また、その価値にふさわしい、有効な保存管理が手厚くなされていることも、必要条件となっています。

世界遺産の分類

世界遺産は「文化遺産」「自然遺産」「複合遺産」に分類されます。

分類を表す図
2019年7月現在 1121件(文化遺産869件、自然遺産213件、複合遺産39件)

平泉の世界遺産

 世界遺産「平泉」の構成資産の中には、国宝「中尊寺金色堂」や特別名勝「毛越寺庭園」のほか、特別史跡「中尊寺境内」、特別史跡「毛越寺境内附鎮守社跡」、特別史跡「無量光院跡」等があります。また、史跡「柳之御所・平泉遺跡群」を構成する柳之御所遺跡、白鳥舘遺跡、長者ケ原廃寺跡や、史跡「達谷窟」及び重要文化財に指定されている骨寺村荘園遺跡の関連資産も世界遺産拡張登録を目指し、文化庁、県、関係市町では、各種事業を推進しています。

世界遺産 平泉

「平泉の文化遺産」は、2011(平成23)年6月、フランスのパリで開催された第35回世界遺産委員会において、世界遺産リストに記載(=世界遺産登録)することが決定されました。

資産名 : 平泉 ─仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群─
構成資産 : 中尊寺、毛越寺、観自在王院跡、無量光院跡、金鶏山

1 「平泉」 がなぜ世界遺産なのか

  • 平泉には、仏教の中でも、特に浄土思想の考え方に基づいて造られた多様な寺院・庭園が、一群として良く残っています。
  • 寺院や庭園は、この世に理想世界を創り出そうとしたもので、海外からの影響を受けつつ日本で独自の発展を遂げたものです。
  • 平泉の理想世界の表現は、他に例の無いものとされています。

2 世界遺産に登録されるためには : 顕著な普遍的価値

世界遺産として登録されるためには、資産に「顕著な普遍的価値」があることが必要とされます。
 その証明のためには、世界遺産委員会が示す10の価値基準のうち最低1つに該当すること 真実性・完全性を満たすこと 有効な保存管理体制が整備されていること、を示す必要があります。

3 「世界遺産 平泉」の価値

平泉は、10の価値基準のうち、iiとviについて認められました。

平泉に見る思想・文化の交流

基準ii:建築、科学技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展に重要な影響を与えた、ある期間にわたる価値観の交流またはある文化圏内での価値観の交流を表すものである。

平泉の庭園及び寺院は、仏教が中国・朝鮮半島を経由して日本に伝播し、在来の自然崇拝思想と融合して独特の発展を遂げ、それが作庭技術や仏堂建築に反映されて生み出されたものです。
独特の性質を持つものとなった日本の仏教、中でも極楽浄土信仰を中心とする浄土思想は、様々な阿弥陀堂建築や、独特の浄土庭園を確立させる原動力となりました。
平泉の寺院や浄土庭園群は、独特の意匠・設計に基づき、現世における仏国土(浄土)がさまざまな形で表現されたもので、それらが、狭い範囲に視覚的に結びつきながら存在し、鎌倉などの寺院や庭園に影響を与えました。

顕著な普遍的意義を持つ浄土思想の反映

基準vi:顕著な普遍的意義を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある。

平泉の寺院・庭園の造営に重要な意義を持った浄土思想は今日平泉で行われている宗教儀礼や民俗芸能などに確実に継承されています。
 中尊寺の境内では、浄土思想と直接的な関わりを持つ民俗芸能である「川西大念仏剣舞」が今なお上演されています。
 また、毛越寺の常行堂では、毎年正月20日に常行三昧の修法が行われた後、参集した人々の無病息災・長寿を祈願して「延年の舞」が奉納されています。
 こうした浄土思想を反映した無形の諸要素が今なお伝えられていることは、顕著な普遍的意義を有する浄土思想が、平泉の資産と密接に関係し、現在にも確実に継承されていることを示しています。

平泉文化遺産の評価

平泉は、12世紀日本の本州北部において、仏教に基づく理想世界の実現を目指して造営された政治・行政上の拠点です。
 仏堂・浄土庭園をはじめとする構成資産は、6世紀から12世紀の間に中国大陸から日本列島の最東端へと伝わる過程で日本に固有の自然崇拝思想とも融合しつつ独特の性質を持つものへと展開を遂げた仏教、その中でも特に末法の世が近づくにつれ興隆した阿弥陀如来の極楽浄土信仰を中心とする浄土思想に基づき、現世における仏国土(浄土)の空間的な表現を目的として創造された独特の事例である、と評価されています。
 それは、浄土思想を含む仏教の伝来・普及に伴い、寺院における建築・庭園の発展に重要な影響を与えた価値観の交流を示しており、地上に残っているものだけでなく、地下に残る遺跡も含め、建築・庭園の分野における人類の歴史の重要な段階を示す傑出した類型です。
 さらに、そのような建築・庭園を創造する源泉となり、現世と来世に基づく死生観を育んだ浄土思想は、今日における平泉の宗教儀礼や民俗芸能にも確実に継承されています。

平泉と仏国土(浄土)

推薦書では仏国土(浄土)に関して次のように説明しています。
 仏国土とは、仏の国又は仏の世界のことであり、菩薩の誓願と修行によって建てられた国をも指すものです。浄土は、通常、阿弥陀如来の極楽浄土のことを指すと考えられやすいですが、東アジアの仏教においては、絶対永遠の仏の悟りの世界、高位や下位の菩薩の世界、凡夫と聖人とが同居する世界などが一体として存在し、そのすべてを浄らかな仏国土(浄土)とすることができると捉えられました。
 特に、6世紀から12世紀にかけて発展を遂げた日本独特の仏教では、現世に究極の仏の理想世界である仏国土(浄土)を実現できると理解されました。
 平泉の建築・庭園及び考古学的遺跡群は、日本の自然崇拝思想とも融合しつつ独特の性質を持つものへと展開を遂げた仏教、その中でも特に末法の世が近づくにつれて興隆した阿弥陀如来の極楽浄土信仰を中心とする浄土思想に基づき、現世における仏国土(浄土)の表現を目的として創造されました。

ユネスコの精神と浄土思想

奥州藤原氏初代の清衡は、中尊寺の建立にあたり、「中尊寺供養願文」において次のように宣言しました。

「古来、奥州では、官軍の兵、蝦夷の兵の区別なく、多くの者の命が失われてきた。毛を持つ獣、羽ばたく鳥、鱗を持つ魚もまた、数限りなく殺されてきた。命あるものたちの御霊は、今、あの世に消え去り、骨も朽ち、奥州の土塊となり果てたが、中尊寺のこの鐘を打ち鳴らすたびに、罪なく命を奪われた者たちの御霊を慰め、極楽浄土に導きたいと願う。」

これに対し、ユネスコ憲章には、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」との理念が高らかに謳い上げられています。憲章に示された平和希求の精神は、まさしく藤原清衡をはじめ、奥州藤原氏が現世に実現しようとした浄土世界及びその基調になった浄土思想と共通するものだといってよいでしょう。

世界遺産候補である「平泉の文化遺産」には、平和を求める普遍的な精神が深く息づいています。

登録までの流れ

  1. 世界遺産暫定リストに登載(平成13年4月)
  2. ユネスコ世界遺産センターへ推薦書提出(平成22年2月1日まで)
  3. イコモスによる現地調査(平成22年9月)
  4. 世界遺産委員会で登録決定(平成23年6月26日)

平成23年登録資産

平成23年に登録された「平泉の文化遺産」は、次の資産となります。

  • 中尊寺
    中尊寺金色堂(国宝・重要文化財)、金色堂覆堂(重要文化財)、中尊寺経蔵(重要文化財)、中尊寺境内(特別史跡)
  • 毛越寺
    毛越寺境内附鎮守社跡(特別史跡)、毛越寺庭園(特別名勝)
  • 観自在王院跡
    旧観自在王院庭園(名勝)、毛越寺境内附鎮守社跡(特別史跡)
  • 無量光院跡
    無量光院跡(特別史跡)
  • 金鶏山
    金鶏山(史跡)

平泉の文化遺産を未来へ

世界遺産の目的は、地域の大切な宝物を人類共通の宝物として次の世代へ引き継いでいくことにあります。
 「平泉の文化遺産」を構成する資産の保護はもちろんのこと、浄土思想を背景として周囲の自然環境と一体となって形成された景観を確実に保全するとともに、持続可能な取組みを進めるうえで、地域振興への活用も重要になります。
 「平泉の文化遺産」を未来に引き継ぐために、各資産と周囲の景観を一体的に保全することを目的とした包括的保存管理計画を策定するとともに、保存と活用に関するアクションプランを策定し、取組みを進めています。